登山用品【山に何を持って行くかは条件次第です】その2

登山用品【山に何を持って行くかは条件次第です】の二回目です。次は三回目とまだまだ続きそうです。その底流には「登山者として自立して欲しい」という願いがあります。

6/17【第二回・初心者向け登山教室】要約
これは神奈川県民センター 302会議室で6月17日に行われた登山教室のレジュメです。今回もやはり時間がたりませんでした。とても何時間かでたりるような内容ではないので無理もありません。引き続き、機会を得てお伝えしていきたいと考えています。

【アイゼン・ピッケル】
【歩行とバランス】
【トレッキングポール】
【地図、コンパスとGPS】
【水は何リットル持つ・、脱水と補給】
【行動食、その・量と質について】

【アイゼン・ピッケル】
冬の高山には絶対に登らないという人でも、夏の雪渓ぐらいはそのうち行くかもしれない。だが冬のやわらかい雪に比べて夏の谷筋やカールに残る雪は思いがけず手強いのである。整備された登山道を歩いているつもりでも、道に迷い急峻で滑りそうなな雪渓に出てしまうかもしれない。私は、初めてアイゼンを買う人に相談されたら、軽アイゼンはやめなさいということにしている。10本爪以上の物を選ぶべきである。根拠なく、4本爪や6本爪、チェーンタイプのアイゼンを初心者向けと思いこんでいるかもしれない。こういう思い込みを変えるのはなかなか大変なのだ。
そもそも夏の縦走路でピッケルやアイゼンを用意する機会はあまりない。例外は登山コースに大きな雪渓が残っているような山である。雪渓を登下降したり横断したりするためアイゼンが必要とされることもある。雪や氷のため滑って歩きにくい、滑落のおそれがあるというのが主な理由で、バランス補助にトレッキングポールを使い、軽アイゼンを穿くというのがよく見られる光景である。
この組み合わせには絶対条件がある。滑って、躓いて、転んで、滑落しても「そのあたりで」怪我をせず、放っておいても止まるような斜面の状態であること。そして自力で登り返せる場合である。
では滑落の結果がただではすまないとはどういう斜面の状態だろうか。
1.早朝、夜間の固い雪。ただし日中の柔らかかった雪でも日が西に傾き、あるいは曇って風が出てきた、空気が冷えてきたというときは要注意。
2.降雨の後の冷え込みによるクラスト。アイゼン無しではつるつる滑る。
3.ルートを間違えて急斜面に出た。こういうこともありうる。
リーダーは夏の雪渓であろうと、こういう斜面で、かつ滑落距離が長いと見込まれるとき、軽アイゼンとトレッキングポールだけの人をその斜面に立ち入らせてはならない。また、雪渓の途中で時間切れが見込まれたら、さっさと引き返すことである。
軽アイゼンは、たとえば急斜面を安定したバランスで下れないというような人にとって、スリップのリスクが高いのである。また、トレッキングポールは固い雪面に突き刺すことも、バランスを取ることも、まして滑落を止めることにも無力である。

【歩行とバランス】
*雪渓の登下降とアイゼン
ここぞというところ、慎重に斜面を下るとき、右利きの人は右足を軸にして左足を下ろしていくだろうか。その方が安定するから理にかなっている。さて、それから斜面が怖い人はこのとき、体を後に倒してしまう。体を起こすように言っても無理がある。何しろ本人は怖いのである。それはちょうど、滑り台でこれから滑り出そうという体勢なので、簡単にスリップする。軽アイゼンには前も後も爪がないのだから滑り出すのは簡単である。
*雪上でアイゼンを使わないとき
キックステップで通過する。登りはつま先を蹴り込む。階段状にステップがあれば水平に蹴り出しながら軽く叩きつけ摩擦を多くする。下りは体重をかけながらかかとを落とすなど、細かい説明は後にするが、ここでも斜面が怖い人には理屈が通じないのである。困ったことに、怖がれば怖がるほどにスリップのリスクが高いようなのである。安全な環境で安定して行動できる限界をのみ込むことが効果的かもしれない。
*登りが苦しい
呼吸を深くする。よく取られる方法は2回続けて吸い、2回続けて吐くという方法。私は昔からこの方法である。肺活量の多い人はこれを3回吸い3回吐くにするらしい。また登り始めが苦しいのは酸素不足のためで運動再開から必要な酸素供給が行われるまでには5分程度かかるという研究がある。休憩後の登高開始はペースを落とした方がよいかもしれない。また筋力や心肺機能など基礎的な運動能力は人によってずいぶん違う。通過するルートも人によっては難しく体力を消耗することになる。多人数のパーティではペース配分の難しいところである。
*大きな段差
大きな段差を下りるとき、トレッキングポールを下の方につき体重をかけて下りるのは危ない。バランスを保ちながら片膝を折って腰を深く落とし、もう一方の足が下の安定した足場に届いたら体重を移動する。このときの体の向きは横向きか斜め横であり、重心は上の方の足の真上に残し、下の足が足場を捉えたら体重を移す。これも雪の斜面と同じことで、山側に上半身が引けてしまうと下がよく見えないだけでなく、滑り台の体勢からスリップに繋がることになる。段差に苦闘すると、よく足の長さのせいなどと聞くが、もちろん冗談話である。
*膝の負担
登りでは重心を下の片足の上に置き、ためを作ってから上の片足へ速やかに移動する、つまり常に片足を休めている状態ともいえる。感覚としては片方の大腿骨頭からもう一方の大腿骨頭へ重心を移し、足で体を持ち上げないようにすることで膝の負担が軽減されるのではないだろうか。下りでは、段差の大きいところは前述の通りとして、勾配の強いところでは正面を向いて下るより、体も靴の向きも傾斜に対して斜め下に向けた方が下りの衝撃を吸収しやすく、姿勢も安定してスリップもしにくいようである。
*鎖、ロープ、はしご
日帰りで気軽に行ける山でも、登山道の岩場などには丈夫な鎖やロープ、はしごがかけられていることが多い。利用するときはしっかりつかむことである。半端につかんで足を滑らせたら体を支えきれない。ましてやトレッキングポールと一緒につまんでいたら転落してしまいかねないのである。でも、そういうものに頼らない登り方もある。それら鎖やロープを使わなければ、もっとグレードの高いルートへ行くための絶好のトレーニングになるのである。鎖に触らなければ良い練習になる。そういう意味では積極的に活用したいものだ。もちろん誰にでも勧められることではない。簡単な岩のルートなら危なげなく通過できるぐらいでなければ一人でやるのはやめておいた方が良いかもしれない。
*ザックのところで話すことがあったので補足する。
ザックの外側には余計な物を付けない方が良い。カップ、ペットボトル、脱いだ衣類など。よく落とすし、しまうのに人の手を借りたり、藪に引っかかったりと、なかなかやっかいなのである。
またザックカバーは山慣れない人にとっては、強風にあおられ危ないこともある。中の物を濡らしたくなければ防水袋に収納すれば良い。ザックカバーとて雨風に対して完璧は期待できないのである。
ザックが小さいといろいろ不都合がある。中の物を取り出しにくい、出した物を納めるとき丸めた雨具やウエアをそのまま突っ込めない、思いがけず増えた装備や食糧を入れられずに手に提げてくる、ザックの回りにいろいろ縛り付ける、他の人に持ってもらう、自分で分担すべき共同装備を引き受けられない、必要かもしれない物を持たないで行く。そして雨や強風の中でパッキングに手間取る。気象条件の悪い中での行動は迅速にする必要がある。せっかくの雨具や防寒着を出したり着替えたりが面倒で(風雨やみぞれのなかでは面倒でやらないのが人情である)そのままじっとしていれば低体温症の引き金になったりする。こういうときは、丸めて入れてあった衣類を、さっと取り出して手早く着込むのである。

【トレッキングポール】
使う人がずいぶん増えた。高齢の登山者が多くなったせいかもしれないが、若い人たちにも支持されてきたようである。バランスが取りやすいし下りが楽になるらしい。その使い方であるが、使える場所は比較的なだらかな登山道である。岩場にさしかかったらそれをしまい両手を空けておかなければならない。しまうのが面倒だからといってトレッキングポールを持った手で岩角をホールドにするのは危険である。しまうのが面倒なら、面倒でないしまい方を自分で考えてはどうだろう。ついでに一言。ザックにトレッキングポールをしまうとき、上に突き出さないようにするべきだ。木の枝にひっかかって難儀しているようだから、その面でのしまい方も考えてほしい。気になることがもう一つある。バランスが取りやすいということは、反面、「歩行を安定させる能力が退化しないだろうか」である。「そこのおにいさん」杖に頼るのはまだ早くはないか。

【地図、コンパスとGPS】
来月、千葉か三浦半島のどこかを選んでのフィールド講習を企画している。前準備としては候補地の調査がある。参加者が用意する物は、(1)ベースプレートタイプのコンパス。(2)エリアの地図。(3)スマートフォンを持っている人はgeographicaをインストールし、該当エリアを一括キャッシュしたもの。(4)雪稜会として用意するものは縮尺1/12500のコースマップ。机上講習は、時間がたりないので次回実施の予定。
GPSで現在地が正確につかめると言っても、コンパスと紙の地図は欠かせない。スマホの画面は一覧性に欠けるのが大きな欠点である。道に迷ったとき、現在地が山域全体のどこに位置するか、つかみやすいことが大切である。それは、その後の行動を決めるのに影響するだろう。またコンパスは南北が逆転する故障を何度も経験しているがスマホに比べれば信頼性は高い。スマホのコンパスはいつも当てにならないのが実感である。地図とコンパスを併用する理由は他にもある。山中では機内モードにしてバッテリーの消耗を抑えるべきだが、道に迷っているときは間が悪いもので画面を頻繁に操作して消耗を早めていたりする。また地形図が出てこないこともある。それは迷っているうち地形図をダウンロードしていないエリアに出てしまったとか、そもそも保存していなかったなどいくつも可能性はある。そして地図が出てこないので調べようとしたら地上波が圏外だったということになる。

【水は何リットル持つ・、脱水と補給】
水をどのぐらい持つか迷ったことはないだろうか。水や食糧についてとても重要な研究が発表され2000年に書籍化されている。今ではその一連の運動生理学の研究結果が山のグレード表示の基準ともなっているようである。
山本正嘉(登山の運動生理学百科)2000年、東京新聞
山本正嘉(登山の運動生理学とトレーニング学)2016年、東京新聞
詳しいことは本を読んでほしい。
今日はメモ無しでもいつでも思い出せるよう、ポイントを一点に絞ってお話しする。
体重の(1/2)×(10)=1時間あたりの脱水量
あなたの体重を60kgと仮定すると1時間あたりの脱水量は30×10なので300ml。上高地から9時に歩き出し、途中休みながらも16時に涸沢へ着いたとする。時間は7時間ですね。そうすると脱水量の合計は300×7だから2100ml。つまり2Lの水分が体から汗、便、尿、呼気、皮膚の不感蒸泄となって失われたとみなす。
*あなたの脱水定数を300mlと覚えておく。これからは300mlにスタートからゴールまでの時間を掛ければ脱水量が直ちにわかる。
*また、脱水量の70%が必要最低給水量といわれるので最低量は200mlである。
さて、これを生身である登山者個々の生理に照らすとき、その個人差やおかれた状況の違いによる差の大きさにも気づかずにいられない。私の経験からいえば岩壁に取り付いていたり、ビバークしたりで24時間以上、飲食なしですごしたこともある。そういうとき渇きはあっても疲労はなかった。ところが縦走路では暑さと渇きで疲労感がひどかったこともある。このときは疲労を防ぐため水分を十分に取るべきだとも思ったのである。
人の体はうまくできていて、遭難して水が飲めなくても炭水化物や脂肪からつくられる代謝水のおかげで1週間ぐらいはなんとか生き延びられるという。因みに何も食べられない場合は3週間くらいだそうだ。
脱水や、それに対処する水の補給は自分の体に問いつつ、上記の数値を調整していけば良いのだろう。
夏は汗をかくから水の補給には気を遣う。しかし冬の脱水には気づきにくい。冬の空気は温度が低いため、非常に乾燥している。一方、肺から吐き出されるのは37度の湿度ほぼ100%の呼気であるから、呼吸からの脱水が大きいのである。
夏も冬も、渇きを覚える前に水をとったほうがよいと言われる。脱水がすすむと水分の吸収じたいがうまくいかないとも言われている。

【行動食、その・量と質について】
行動食の量は山本正嘉教授の研究がやはり重要である。私はこれも簡単にしてみた。
体重の(1/2)×(10)=1時間あたりの消費カロリー
おんなじ式なのである。
あなたの体重を60kgと仮定すると1時間あたりの消費カロリーは30×10なので300kcal。今度は土合から9時に歩き出し、西黒尾根を経由し途中休みながらも16時に谷川岳ロープウェイ駅へ着いたとする。時間は7時間ですね。そうすると消費カロリーの合計は300×7だから2100kcal。これを7時間の登山で使ったエネルギーとみなす。
*そこであなたの燃焼定数を300kcalと覚えておく。これからは300kcalにスタートからゴールまでの時間を掛ければ消費カロリーが直ちにわかる。
*これも、消費カロリーの70%を取れば良いといわれるので最低量は200kcalである。おにぎりが1時間に1個弱というところだろうか。お昼にまとめて食べず、行動中の小休止を利用して、こまめに口にしていれば「シャリバテ」を避けられるのでは。
*次は質の問題。
行動食は炭水化物が良い。糖類でも、特にブドウ糖のような単糖類に近いほど吸収が早い。即効性があるので競技スポーツにはひょっとして有効かもしれない。でも、そうすると血糖値を一気に上げ、元気になるがその後急降下するので反動の疲労感が大きいとも言われる。おにぎりは、その点、構成が60%の水分と炭水化物、蛋白質、脂肪その他である。主な材料が米なので、仮に40g全部が炭水化物だとしたら、炭水化物からのエネルギーは160kcalであるから1時間に1個はちょうど良い分量と言えそうだ。そして炭水化物の良いところは消化吸収がゆっくりで、食べて1時間後くらいから栄養の吸収がはじまり高原状に持続するところにある。 1,2時間もしたらまた口にすればよいのである。登山のような持続的で比較的強度の低い運動には適しているように思う。

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2019年6月19日